62.朱


 指先を少し切ったら、血が出てきた。
その色に、おや?と、思わず首をかしげる。

----なんか、薄い。

毒々しい真っ赤な色を想像したのに。
出てきた液体はどちらかと言うと朱色をしていた。

----血、薄いのかな、やっぱ。

 たまに気が向いて献血をしようと思っても、比重が軽いと言われて駄目だったりする。
ちょっと、複雑。
だって、それって「貴方の血は使い物になりません」ってことじゃない?
ちゃんと、この血で生きてるのにさ。

 ほんの少し切っただけなのに、なかなか血が止まらない。
傷口の血を嘗めとって、痛みを感じるほど強く傷口を押さえる。
口に広がる鉄の味。まあ、しばらくすれば止血するはず。

 血を見るのは苦手。特に、他人が流している血を見るのは、いや。
怪我をしたりとかして自分が血を流している時はわりと平気。

 平気な上に、時々、血が見たくなる時がある。
他人じゃなくて、自分の。

 献血とか検査で血を抜かれるのも、そんなに嫌いじゃない。
血のつまった注射器を見るのは嫌いだけど、
あの、血が抜けていく感じ、力とか熱とかを吸い取られていく感じが好き。
片腕だけしばらく全然力が入らない、まるで自分の腕じゃないみたいな感覚とか。
ヤニクラしてる時と似た、浮遊感と脱力感がクセになるかんじ。
煙草をやめられないのもそのせい、かな?いやいやいや…

 自分から流れ出す血を見ると安心する。
あ、生きてるんだ、まだ。って思える。
リストカッターとかも、そんな気持ちなんじゃないのかな…、…違うか。
痛いのやだから、血を見たくなるって言っても切ったりとかはしないけどね。

でも、貧血はちょっとごめんだ。ちょっと度が過ぎる。

 ああ、何考えてんだろう。

とりあえず、止血は完了。
ばんそうこうも貼って、
血を眺めるのはもう終わり。

 次はいつかな…


※無断転用・転載を禁じます。