53.苺色


映画館を出て車に戻ると
なんか このまま彼女を送って帰るのが
ものすごく勿体無い気がした

また映画に行こうって 約束はしたけど
なんて言うか どうなるかわかんないし
なにしろ夏休みもあと一週間しかない
さすがに俺も忙しいしなー
こうやってデートできる機会って
少なくなる気がする

そう思ったら 居ても立ってもいらんなくて
このままドライブ行かない?って 誘った
すると彼女は しばらく沈黙
それから ちょっと笑って

「海が見たいな」

だって
そういうわけで あれから海に行った
道は良く分からなかったけど
道路標識を見ながらそれらしい方向に向かった
しばらくして「港まで2キロ」という標識を見つけて安心
港の敷地内に車を止めて
ふたりで海が見えるとことまで歩いていった

遠くに灯台が見える 空には星が見え始めていた

「ちょっと寒いね」

少し先を歩いていた彼女が振り返ってそう言った
そういうセリフ ぐっとくるなあ
思わず 肩抱いちゃったりなんかして
わーマジ恋人みたいー って言ったら

「調子にのんないの」

って あ なにげに冷たい 彼女
でも 大人しく彼女は俺の腕の中に収まってる
そんなに寒いの? 冷たいこと言うクセに
あれー? なんか俺ってば すねてる?
なんか 変な気分だ

しばらく黙ってたもんだから
彼女に名前を呼ばれた「ダイスケ?」って
彼女の口から出る自分の名前 くすぐったいカンジ
ねぇねえ 俺も名前で呼んで良い?って聞くと

「別に、良いけど。どうしたの?急に…」

そう 俺今まで彼女のこと「カノジョ」って呼んでたんだ
名前は聞いたけど なんか呼べなかった
何を気にしたわけでもないし カノジョって呼んでれば事足りたし
でも そう急に
彼女が自分のことを名前で呼ぶのに気付いたら
俺も名前で呼びたくなった

ナツキって声に出して呼んでみる
腕の中の彼女が返事をした
俺を見上げてきた長月にちょっと見愡れる
あれ? こんなにきれいだったっけ?
美人だとは思ってたけど
白い肌 長いまつげ 鳶色の瞳 それから
苺みたいな唇
奇跡みたいな完璧な配置で並んでる
すごいなー 感心しちゃう ホントに

じっと見てたら 長月が噴き出した
ヘンな顔だって もー 見蕩れてたんだよ 長月に
あんまり笑うから っていうかそれが可愛かったから
怒った振りして 奪っちゃうもんねー
苺みたいな唇 あ 長月のビックリ顔
にやって笑ったら ほっぺたを軽くつねられた

「調子に乗るんじゃないってば。帰ろ」

長月の顔は笑ってる 肩を抱いたまま車に戻った
平然を装ってたけど なんか 心臓破裂しそう
っつか このままホテルへ!っとか
したい気分だったけど さすがに
これ以上軽い男だと思われたくないし…

なんか 変だな 俺
いつも気にしないようなこと気にしてる
ちらっと彼女の方を見たら
携帯をちょっと見ていた
その一瞬の表情で 分かる
例の今付き合ってる人のこと考えてる
彼氏じゃないけど付き合ってる人
どう言う意味なんだろう
迷ったけど 直球で聞いてみた
今付き合ってる人とどうなってんの?って
そしたら一言

「…別れたわ」

ええっ マジで? わーなんかあれだ あれ
急展開の予感ってやつ? だってキスもしちゃったもんねー
あ でも 別れた寂しさ紛らわすのに
俺って利用されてるのかな う それはちょっと嫌かも

…ま いいか
利用されてるかも知れなくても
だって その間は長月とこうやって会ったり出来るわけだし
難しいこと考えんのって
俺らしくないもんねー
よっしゃ やる気出てきた がんばるぞー!



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