18.湖緑(湖の色)


永久に変わらぬ愛を誓う

この湖のほとり 小雪の降る銀世界の中で 貴女に出会った
あまりの美しさに 氷女にあったと思ったほど
けれど 初めて触れた 貴女の桜色の手はあたたかく
柔らかい 春の匂いをかいだと思った

貴方は遠くに行ってしまう 春が来るよりも先に 私の
知らないところへ行ってしまう
それを お止めすることは出来ません
さりとて 一緒に行くことも叶いません

待っていてくれるか
必ず帰るよ 春が来て この湖の氷が解ける頃
貴女のもとへ 帰って来るから

お待ちいたします 私には
そうすることしか出来ませんもの
貴方を信じて待っています この湖のほとりで

今ここで
永久に変わらぬ愛を誓おう

女は自分の髪止めを男に手渡した
帰ってくるまで持っていてほしいと
また 自分を見つけられるように

約束しよう この氷が解ける頃 必ず帰ると

お待ちいたします いつまでも 変わらぬ思いで貴方を待ちます

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それから100年の月日が流れ…

季節は春

ひとりの旅人が伝説になった湖を訪れた
悲しい恋の伝説が残るこの湖を

近くにすむ村びとが伝える

女はある日 この湖に身を投げた
遠くに行ってしまった恋人が
もう戻って来ないと絶望したから
また
恋人の心変わりよりも
何より自分の心変わりを恐れたから
だから彼女は身を投げた

その時から
この湖の氷は春になっても解けなくなったという

有りがちなお伽話だと旅人は笑った
その証拠に
湖は氷ってなどいない
碧くたゆたう水をたたえている

あたりを見回すと
湖のほとりに寄り添う恋人たちがいた
女性の方は どことなく古風な格好をしている
目が合って 女はにっこりと微笑んだ
文句無しの美人だった

このあたりに住んでいる者ではないのだろうか
悲しい恋の湖に幸せな恋人たちは
たいそう奇妙に旅人の目に映った

「この湖の伝説を御存じですか?」

聞くと男の方が笑った

「ええ、さっき村の人に聞きました
…でも その伝説に続きがあるのを御存じですか?」

おや と旅人は首を傾げた
恋人たちは互いを見つめあって少し笑う
男が女の肩を抱いた

「その恋人たちは 百年経って 誓いを果たしたのですよ」

百年?
旅人は首を傾げた
人の寿命はそんなに長くない
離ればなれの恋人が 百年後に会うことなどかなわない

途方にくれた旅人をよそに
恋人たちは笑って歩き去った
女の髪止めが太陽の光を映してきらりと光った

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はじめまして 私の愛しい人

お帰りなさい 変わらぬ姿と思いで
約束通り お待ちしていましたわ
貴方は分かっていらっしゃったのね

もちろんだよ 愛しい人
私を私と認めてくれるのだね?

もちろんですわ
私が差し上げた髪飾りを 貴方は持っていらっしゃいますもの

ああ嬉しいよ 貴女に会いたかった 美しい人

うれしゅうございます 貴方に会えて

ふたりは永遠を形にした

女は冷凍冬眠装置で
男はクローン技術で

永久に変わらぬ愛を誓う



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